双曲面毛布の縫い方

ここで紹介する双曲面毛布は、数学者兼彫刻家である、ヘラマン・ファーガソン氏によって、デザインされたものです。彼のオリジナル作品は、写真のようなポンチョでした。

hyperbolic poncho

ファーガソン氏のご好意で、私はこのポンチョを借り受け、数学の講義に使っただけでなく、どう作られているのかを解析して、自分用の双曲面毛布を作ることができました。さあ、貴方も、下記の作り方と写真とを見ながら、自分用の双曲面毛布を作ってみましょう!

従来の、紙を使った双曲面のモデルに比べ、ファーガソン氏のデザインは、次のような点で優れています:

この双曲面毛布を作るには、 フリース素材から、双曲型正五角形をたくさん切り出し、それらを縫い合わせます。

双曲型正五角形の型紙の作り方

双曲型正五角形の型紙は、大き過ぎて、一枚のA4サイズの紙には収まらないので、左半分右半分とを別々の紙に印刷して…

template halves

…つなぎ合わせます。

template whole

プリンター用紙は、フニャフニャ過ぎて、型紙としての実用には堪えないので、次のように、型紙を画用紙に写します。

先ず、外側の五角形にそって、型紙を切り出します。

cut outer pentagon

しっかりした薄めの画用紙に、五角形のふちをなぞって写します。

trace outer pentagon

続いて、内側の五角形を切り抜き、残った五角形の帯を、画用紙にテープで貼り付けます。このとき、五角形の帯の外側のふちが、なぞった線に一致するように、注意して下さい。

tape pentagon

五角形の帯の内側のふちを、なぞって画用紙に写します。

trace inner pentagon

プリンター用紙の帯を取り除き、外側と内側の五角形に沿って画用紙を切り…

cut cardboard

…五角形の帯にします。これで型紙の完成です。

cardboard template

双曲型正五角形の切り出し方

材料を用意しましょう。フリース素材が、2色必要です。洋裁用のチャコと、布地と色の合った、糸も用意します。

materials

画用紙の型紙をしっかり手で押さえ、チャコを型紙の外縁を内縁とに沿って走らせ、型を布地に写します。

outer chalk pentagon

このとき、型紙の縁からの、チャコの距離を一定に保ち、全ての型が、同じ大きさになるように、注意して下さい。五角形の大きさにバラツキがあると、後で縫い合わせるときに、大変です。

both chalk pentagons

五角形ひとつを、先ず大雑把に切り出しましょう。

rough cut

これで扱い易くなったので、注意深く、外側の線に沿って切り、型通りの五角形を切り出します。

fine cut

これで完成です:

fleece pentagon

このような五角形を、1色で25枚作り、もう1色で26枚作りましょう。

双曲型正五角形の縫い合わせ方

いよいよ縫い始めです。ミシンに、糸をセットします。ボビンにも糸を入れることを忘れないように。

sewing machine

五角形と五角形とを、チャコで印を付けた側を外側にして背中合わせにし、チャコの線に沿って、一辺を縫い合わせます。曲線に沿って縫うので、縫うに従って、布地を回転させる必要があります。このとき、曲線の端を通り越して、布地の縁から縁まで縫ってしまってかまいません。

sew two pentagons

51枚の五角形のうち、違った色2枚づつの25組をこのように一辺だけ縫い合わせ、1枚余します。

次に、25組のペアのうち、10組を、2組づつ縫い合わせて、4枚の組を5組作り…

group of four

…15組を、3組づつ縫い合わせて、6枚の組を、やはり5組作ります。

group of six

2枚づつのペアを、このように縫い合わせるとき、縦横の縫い目が、ぴったり一点で交差し、4枚の五角形が1点で接するようにすることが、奇麗な毛布を作るコツです。例えば、上の4枚の組の写真では、4枚の五角形がうまく縫い合わさっていますが、6枚の組の写真を注意深くみると、左側の4枚を合わせる縦の縫い目が、上2枚から下2枚に移るところで、少し右にズレてしまっていることが、見て取れると思います。この程度の誤差ですと、あまり目立ちませんが、これを超えるような誤差は、避けるようにしましょう。

このように、4枚の五角形がうまく1点で合うようにするには、既存の縫い目どうしが、ズレないようにしなければなりません。

align seams

そのためには、縫い目を合わせて、待ち針で布地を固定します。縫う前に、表に返してみて、きちんと縫い目が真っ直ぐ繋がっていることを確認します。うまくいくまで、何度でもやり直しましょう。

insert pins

さて、この時点で、五角形4枚の組が5組、五角形6枚の組が5組、そして、まだ縫われていない、1枚の五角形が手元にあるはずです。余っている1枚が、毛布の中心です。そして、5組の4枚組が、それぞれ1辺を、この中心五角形と共有することになります。

fours placement

5組の6枚組は、それぞれ、4枚組と4枚組との間に挟まれ、中心五角形と、1頂点を共有し、左右の4枚組とは、それぞれ2辺を共有することになります。下の写真には、6枚組のうち、ひとつしか写っていませんが、他の4組も、同じように繋がります。(ユークリッド平面である床には、5組とも広げて置けるだけの場所がないので。☺)

six placement

さて、上記のように、パーツを縫い合わせていく訳ですが、縫って行くに従って、それぞれのパーツが大きくなっていきます。ここで、どんなにパーツが大きくなっても、繋がるべきパーツの縁どうしを、一気に連続して縫い合わせてしまうことが、うまく毛布を縫うコツです。決して途中の頂点で、縫い目が止まってしまわないように。では、どのようにパーツを縫い合わせて行けば良いのかというと、毛布の出来上がった状態(下図参照)から、逆算していきます。赤い線を最後に縫うとします。すると、それより前に、オレンジの線を縫っておく必要があります。そして、それより前に、黄色、緑、ピンク、茶色、と逆算して行けば、各ステップで、縫ておくべき縫い目が、はっきりします。

cut order

縫い終わったなら、余分な糸などを切り落として、完成です。

final blanket

ファーガソン毛布の秘密 (つけたし)

ファーガソン氏の双曲面毛布は、従来の双曲面モデルよりも、双曲面の曲率を、より広範囲に分布させています。従来の典型的なモデルは、多くの多角形を紙か画用紙から切り出し、それらを張り合わせたものでした。例えば、51枚の正五角形を画用紙で作り、それぞれの頂点で、正五角形が4枚づつ合わさるように張り合わせれば、一見ファーガソン毛布と同じようなものができます。問題なのは、画用紙で作られた正五角形では、各辺が真っ直ぐで、各内角が108度あるため、4枚が一頂点で合わさると、全部で4×108度=432度になってしまい、各点を囲むべき360度を、優に超えてしまうことです。双曲面の曲率は、本来一様に分布しているものですが、アイロンで各五角形を平らに延ばしてしまって、曲率を頂点部にだけ押し付けてしまった状態といってよいでしょう。つまり、画用紙モデルの大局的な形は正しいのですが、局所的な形が間違っているのです:局所的には、各五角形内の曲率はゼロ(つまりユークリッド平面)で頂点部の曲率密度は無限大なのです。

ファーガソン毛布では、2つのアイデアで、局所的な曲率を補正しています。まず、最初のアイデアは、それぞれの五角形の辺を凹ませ、各頂点の内角が、ちょうど90度になるようにしたことです。(型紙の写真を注意深く見れば、内側の五角形の内角が、辺が凹んでいるために、ちょうど90度になっていることがわかります。)内角が90度ならば、4×90度=360度で、頂点部に曲率が集中しません。その代わり、五角形の凹んだ辺どうしを縫い合わせることによって、縫い目の部分に曲率が一様に分布します。言い換えるならば、この第1のアイデアによって、画用紙モデルでは、ゼロ次元の頂点に集中していた曲率を、1次元の辺に、広げて分布させることに成功したのです。

ファーガソン氏の第2のアイデアは、伸縮性に乏しい従来の布地ではなく、伸縮性に優れたフリース素材で、毛布を作ったことでした。フリース素材の伸縮性により、縫い目に分布した曲率は、縫い目を挟む2つの五角形の内部にまで広がります。言い換えるならば、この第2のアイデアによって、1次元の辺に集中していた曲率を、2次元の面全体に広く分布させることに成功したのです。以上が、ファーガソン毛布の秘密です。

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このページの日本語訳をしてくださった、竹内建(Tatsu Takeuchi)氏に感謝します。

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